不倫関係だった男女の金銭バトル そして国税との争いへ①
2017/05/19
医師である孝一(仮名)が、真弓(仮名)と知り合ったのは平成20年7月のこと。真弓が外来受診して孝一の診察を受けたのがキッカケだ。その後、二人で食事などに出かけ、しばらくして男女の関係が始まった。
平成21年12月、孝一は妻と別居して真弓と同居しようとマンションの売買契約を結んだ。そして、手付金を支払い、購入資金の一部について住宅ローンの融資を申込んだ。
年が明けた平成22年1月、真弓は自分名義の預金口座を開設し、孝一から受け取った残りの購入資金と同居生活の当面の生活費を受け取り、その日のうちに入金した。ところがその翌月、孝一は真弓に向けて、「交際は解消することになると思う」「マンションの売買契約は解約する」といった内容のメールを送信したのだ。孝一はマンションの購入を諦め、手付金を違約金に充てて売買契約の解除に合意した。別れを切り出した孝一だったが、すぐには真弓との関係を絶ち切ることができず、二人の不倫はしばらく続くこととなった。
孝一と真弓の関係が終わったのは平成22年11月頃だった。孝一は真弓に渡していたマンションの購入資金等を返してほしいと求めるが、真弓はすでに口座から資金をすべて引き出し、口座そのものを解約していた。
孝一が催促しても真弓には一向に返す気配がなく、平成23年3月、孝一はついに訴えを起こす。不倫関係だった男女が、金のもつれで原告と被告の立場で争うこととなった裁判は、被告の真弓に軍配が挙がった。
その理由として裁判所は、孝一が真弓に渡したマンションの購入資金について、「建物の購入が実現しないことを解除条件として贈与したものと認められる」とし、それは孝一が真弓との関係を維持するために行われたもので、「不法原因給付にあたるから、金員の返還を請求することはできない」と判断した。
民法第90条《公序良俗》では、公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とすると規定している。不倫相手と同居生活を送るためにマンションの購入資金を贈与することは、現在の社会における倫理、道徳に反するとして、公序良俗に反する事項を目的とする法律行為として民法第90条の規定により「無効」とされたわけだ。
マンションの購入資金等を手に入れた真弓だったが、それは国税当局との新たな争いの始まりだった。(つづく)